ご挨拶

すべての患者さんが
安心して移植を受けられるようにするために

金沢大学附属病院  造血・免疫細胞療法センター長
金沢大学医薬保健研究域医学系血液内科学教授
宮本 敏浩

 血液がんや再生不良性貧血のような血液難病に対する薬物療法は近年大きく進歩し、かなりの患者さんがそれによって病気を治せるようになりました。しかし、薬物療法だけでは治せない患者さんが今なお一定の割合で存在します。そのような難治性疾患を根本的に治すためには、患者さんの血液細胞を、健康な人の「血球の種にあたる細胞(造血幹細胞)」で置き換える「造血幹細胞移植」を行う必要があります。北陸三県では、42年前に日本で最初にこの造血幹細胞移植を成功させた金沢大学附属病院を始めとして、富山大学、富山県立中央病院、富山赤十字病院、石川県立中央病院、福井大学で同種移植および自家移植、また、恵寿金沢病院では自家移植が行われています。一方、造血幹細胞移植を成功させるためには医師・看護師だけでなく、移植コーディネーター、薬剤師、栄養士、理学療法士、移植後の就労を支援するためのソーシャルワーカーなどの多職種の協力が必要ですが、これらのスタッフはどの病院でも充足しているとは言えません。また、移植を担当する病院と、患者さんを移植施設に紹介する病院との間の連携も十分ではないため、北陸地域のすべての血液難病患者さんが最適な時期に適切な移植を受けている訳ではありませんでした。
 造血幹細胞移植推進拠点病院事業は、日本の各地域における造血幹細胞移植医療の拡充を目的として厚生労働省が2013年から開始した支援事業です。第一期の事業では、北陸地域は東海・北陸地域として一つにまとめられていましたが、2020年度から開始された第二期の本事業では、北陸地方に拠点を置くことの必要性を訴えて金沢大学附属病院が応募したところ幸い採択され、北陸では本院が中心となってこの事業を進めることができるようになりました。この事業の中心は日本造血細胞移植学会の移植認定医に加えて、移植患者さんの長期フォローアップを外来で担当できる看護師、造血細胞移植コーディネーターなどの育成です。本事業に採択されたことにより、多くの病院ではまだ十分とは言えないこれらコメディカルスタッフを、支援費を受けて育成できるようになりました。
 また、移植拠点病院の事務局が、移植が必要な血液疾患患者さんの動向を正確に把握することによって、病院間での患者情報のやり取りがスムーズになり、その結果、多くの患者さんがもっともよい時期に移植が受けられるようになることや、就労支援が充実することによって移植患者さんの社会復帰が促進されることも期待されます。血液疾患患者さんやその治療に携わられている北陸地区の全ての医療スタッフが本移植推進拠点病院事業に関心を持ち、有効に活用されることを切に願っています。